名料理人が語る「完熟みそ」vol.4
名料理人が語る「完熟みそ」TOP-NOTCH CHEF
六甲味噌製造所が毎年秋に販売する「完熟みそ」は、同社の看板商品の一つ。10月に売り出し、多分3月くらいまで販売する売り切れご免の味噌である。限定商品で、しかも兵庫県産品を用いて造る点からすこぶる人気があって、この発売を待ち望む声も多い。蛇紋岩米・サチユタカ・赤穂塩と材料がオール兵庫県産というのも魅力で、芦屋の味噌蔵でそれらを仕込んで熟成させる事もあって“兵庫県テーマ”の味噌として料理人からは高く評されているのだ。酒精(醸造用アルコール)を添加せずに造っているので実にピュア。袋内で発酵を続けているために購入時期で、その風味や印象も若干違って来るのも高く評される理由のうち。このコーナーでは、その時期時期に応じて有名料理人に「完熟みそ」の魅力を検証してもらう事に。第四回目は、最近神戸洋食の旗手としてめきめき売り出している「グリルDAITO」の大東文彦さん。秋の発売当初に「完熟みそ」を手渡し、その風味に合った洋食二品を披露してもらった。さて神戸・北野町の人気洋食店は、いかに「完熟みそ」を用いて洋食ジャンルに落とし込んだのであろか。そのレシピに基づく味噌の使い方を伝授してもらおう。

〈「グリルDAITO」 大東文彦 プロフィール〉 PROFILE
大東文彦さんは、洋食のメッカ・神戸で生まれ育った料理人。かつて名店の名を誇っていたトアロードの「ハイウェイ」のDNAを引き継いでいる。何と大東文彦さんは、谷崎潤一郎が名づけたといわれる洋食店「ハイウェイ」の大東八郎さんの孫にあたるのだ。神戸洋食は二系統から成る。一つは「オリエンタルホテル」出身者。もう一つは船のコックが陸に上がって店を出した系統。大東八郎さんも船内コック出身でその昔は「浅間丸」という船の厨房で働いていた。「細雪」の小説内のモデルにもなっている八郎さんの弟が始めたのが「ハイウェイ」で、彼は店をスタートさせてすぐに急死する。ある日、谷崎から手紙が届き「ハイウェイ」を継ぐべきと示唆されていた。そして大東八郎さんは弟の意志を継ぎ、「ハイウェイ」を神戸を代表する洋食店へと育て上げた。つまりその孫の大東文彦さんが営む今の「グリルDAITO」には、神戸洋食のエッセンスが詰まっているのだ。
大東文彦さんは、北海道の酪農学園大学から中之島辻学園TEC日調へ行き、祖父と同じ料理人の道へ就いた。オーガニックレストランや和食店、焼酎バー、カフェ、居酒屋などで調理の仕事をしてコロナ禍に神戸・北野町で洋食店「グリルDAITO」を開いている。実は大東文彦さんの二人の叔父も料理人で洋食畑。その血筋よろしく彼もかつて「ハイウェイ」があったトアロード沿いに念願の独立店を構えたのだ。「祖父のレシピもおじさんから教わりました」と言うように「グリルDAITO」の名物となっている「香住産カニクリームコロッケ浅間丸風」は祖父や叔父の流れをくむもの。祖父がやっていた船内調理に倣って油で揚げずにオーブンで焼いて作っている。なのでメニュー名に“浅間丸”の文字が入っているのだ。カニクリームコロッケやコンソメスープのように味を継承したものと、DAITOハンバーグなどの独自路線のものが上手く組み合わされているのもこの店の特徴の一つ。今やその噂が噂を読んで神戸の名洋食とまで言われるまでになっている。

まろやかな完熟みその脇役ぶりが秀逸SELECTED MATERIALS
大東文彦さんの経歴を辿ると、実に多彩なジャンルのフィールドで調理して来たのがわかる。つまり多くの洋食店シェフのように西洋料理一辺倒ではなく、和食から居酒屋、パティシエまで多くの知識を修得して新たに洋食ジャンルに臨んでいるのだ。その代表例が「仔牛タンやわとろ煮和風たまねぎソース」で、洋食の牛タンシチューとは一線を画した和風仕上げに。うまく和を洋食化した料理だと感心してしまう。ランチに赤だしの味噌汁を付けているのもこの店らしさ。聞けば独立前に働いていた「洋食屋ふじ家」(大阪)の「蛤の赤だし」に倣ったそう。このように色んな角度から素材や調味料を洋食に落とし込んでいるので、今回の取材(「完熟みそ」を用いた料理)にも何の躊躇もなく挑んでくれた。
大東文彦さんの「完熟みそ」の印象は、「味噌独特の嫌みがなくて素材と一体感を持てそうな調味料」との事。「完熟みそ」が発売になった秋に届けたのでレシピを作った時点ではフレッシュ感がまだまだ残っていたようだ。「時に一般的な味噌を買って来て使うと、その味が主張しすぎるような嫌いが多々あるのですが、『完熟みそ』はそれがなく、味もまろやかで調理に用いると旨みが広がります」と評していた。シンプルにキュウリに載せて食べてよく、野菜と一緒に味わっても共にその味が消化されるのがよかったとも表現している。「酒で口内に残った味噌感を洗い流し込むようにしなくてもパクッと食せます」と独特の表現をしてくれた。
「グリルDAITO」のメニューを見ると、「ビーフヘレカツエスカロップ風」「DAITOハンバーグ」と純然たる洋食が並んでおり、和の調味料である味噌を使うシーンがないように思う。ところが百戦錬磨の彼は和の調味料とてさらりと取り入れてしまう。「グラタンを味噌で調味してもいいし、うちの名物の『DAITOハンバーグ』のソースに『完熟みそ』を使っても面白いと思いました。味噌はデミグラスソースの隠し味に用いてコクを出したり、味の奥行きを持たせたりもできます。『完熟みそ』のようにまろやかで味噌の嫌みを出さないものなら洋食でも十分使えますよ」。ランチの味噌汁として使うのが一番いいのだろうが、それだと面白みに欠けるだろうと今回は「神戸牛すじ六甲味噌グラタン」と「DAITOハンバーグ完熟みそソース」を作って「完熟みそ」の良さを表現してくれたようだ。

神戸牛すじ六甲味噌グラタン
神戸の洋食店らしく神戸ビーフのすじ肉を使って酒の肴になりそうなグラタンに仕上げた。「グリルDAITO」では、昼はご飯や赤だしの付いたランチが売りだが、夜ともなると洋食アラカルトで一杯飲むシーンも目立つ。特に要予約で提供するコース料理(7,700円)は、色んな料理が続き、ワインと一緒に味わうにはぴったりだ。大東文彦さんは、そんなシーンを思い浮かべてこの一品を創作した。だから「グラタン皿で作るとヘビーになるかも」と思ってあえてココット皿にし、酒のアテのサイズにしたようだ。牛すじ肉は和だしを用い、圧力鍋で下茹でしてから柔らかくなったのを確認して「完熟みそ」を加えて煮る。味噌を足してから味を詰めて調整するのがポイントで、この後に掛けるベシャメルソースと上手くマッチするように調味しなければならない。そのためにベシャメルソースに摺り卸した生姜を加えている。とろけるチーズを上に掛けてオーブンで焼く。すると神戸ビーフ(すじ肉)の旨みが出た味噌グラタンが出来上がる。元来牛すじ肉の味噌煮込みなら酒のアテにしても不思議はない。「けれど洋食屋のアテなのでその要素を取り入れたグラタンにしてみた」と説明していた。「グリルDAITO」は歴とした洋食屋だが、大東文彦さん自身は洋食屋としてやっている意識は薄いらしい。だからこのように和の酒のアテからのアレンジが広がるのだろう。味噌煮込みにベシャメルソースが入る事で味が一つにならない嫌いが生じる。その二つを繋げる役目が生姜で、これが加わる事で味噌とベシャメルソースの一体感が生まれて来る。

DAITOハンバーグ完熟みそソース
この料理もどちらかというとご飯のおかずというよりも酒のアテ感覚で創作したそう。牛肉と豚肉の合い挽きミンチを使ったハンバーグは、「グリルDAITO」のおなじみの料理だが、今回は「完熟みそ」を使用して和の雰囲気をソースの中に忍ばせた。本来なら店オリジナルのデミグラスソースを用いるのだが、それだと作り方が難しくここは家庭でもできるように缶詰で対応。缶詰のデミグラスソースに「完熟みそ」と生クリームを合わせて温めれば完成するように設計している。ただデミグラスソースを少し温めてから味噌を足して溶き、それから生クリームを足して温めるのがポイントで、ソースの中に味噌の粒々はできるだけ残したいと考えたようだ。デミグラスソースに「完熟みそ」を合わせる事で少し酸味とコクが増す。この二つだけだと少し濃い味なので生クリームを加えてまろやかさを出しており、大東文彦さん曰く「味噌とミルクが合うのと同じで、生クリームも当然味噌との相性がいい」との話であった。洋食のソースとして味噌の使用はあくまで隠し味。味噌が主張しすぎても洋食の趣きが薄れてしまうので、生クリームを合わせて発酵食品同士の相性を強めながら洋食らしさを醸し出している。今回はハンバーグのソースとして用いたが、このソースは万能タイプなのでビフカツ、トンカツ、コロッケといった洋食系の揚物にはフィットするとアドバイスしてくれた。
ハンバーグのソースがどうしても濃い味になってしまうために付け合わせはカリフラワーのピクルスといった酸味のあるものや、レンコンのピリ辛ソースのように刺激性の辛みのあるものにし、味に変化を持たせながらバランスを整えている。
(文/フードジャーナリスト・曽我和弘)
〈「完熟みそ」とは…〉KANJUKUMISO
六甲味噌製造所が醸造する人気の米赤味噌。昭和57年(1982)に産地が特定できる安心素材を用いて造ろうと始まったのがきっかけ。
その後、平成21年(2009)からは、地産地消を謳って兵庫県産品で造るようになった。但馬地方の蛇紋岩米と、兵庫県産大豆・サチユタカ、赤穂の塩を用いて天然醸造している。
豊かな香りとコクがある米赤味噌で、まろやかな風味を有している。令和3年(2021)からは、アルコール無添加にし、袋内で熟成が進む味噌に。
味噌が生きているために味噌らしい香りや味がさらに良くなった。素材の栽培量が限られているので年に一回の醸造。10月より4月頃までの限定販売品である。
名料理人が語る完熟みそレシピRECIPE
神戸牛すじ六甲味噌グラタンの作り方

〈材料:4人前(直径10cmココット皿4個)〉
牛すじ肉 300g
みりん 30g
濃口醤油 30g
料理酒 30g
きび砂糖 大さじ3
白だし 400g
完熟みそ 大さじ2
ベシャメルソース(缶詰) 1缶(290g)
生姜 すりおろし小さじ1
ブロッコリー 3切れ程を角切り
トマト(角切り) ½個(できれば種とる)
粉チーズ 適量
とろけるチーズ 表面覆う位
〈神戸牛すじ六甲味噌グラタン作り方〉
① 牛すじ肉は下茹でし、白だし・みりん・濃口醤油・きび砂糖・酒を合わせた和だしを加え、圧力鍋で柔らかくなるまで煮る。汁気がヒタヒタになるくらい。
② ①に完熟みそを足して詰めながら味を調整する。
③ ココット皿に②を入れて、摺り卸した生姜を加えたベシャメルソースを上に掛ける。
④ カットしたブロッコリーとトマトを③に載せ、とろけるチーズを掛けてさらにその上に粉チーズを振ってオーブンへ。230℃で10~15分程加熱する。
⑤ グラタンがグツグツして来たらオーブンから取り出して出来上がり。
〔ポイント〕
味噌を初めから入れて作るとその風味が損なわれるので、まず牛すじ肉を和だしで煮てから「完熟みそ」を足して味を詰めましょう。
DAITOハンバーグ完熟みそソースの作り方

〈材料:4個分(1個約130g)〉
合い挽きミンチ肉 300g
卵 1個
牛乳 100ml
パン粉 30g
炒めた玉葱 50g
塩 小さじ1
白コショウ 適量
サラダ油 適量
デミグラスソース(缶詰) 1缶(290g)
完熟みそ 大さじ2
生クリーム 大さじ2
<作り方>
① ボールに合い挽きミンチ肉と塩を入れ、まずよく練る。次いで炒めた玉葱、卵、牛乳を合わせていき、ハンバーグのタネを作る。ラップして冷蔵庫で最低30分は寝かせる。
② ハンバーグの形に成形(し、パン粉をまぶして油を敷いたフライパンで焼く。この時、蓋をして弱火で蒸し焼きのように焼くと中まで火が通って安心。
③ 片面に焦げめがついたらひっくり返して同じ要領で焼く(両面で計10分ぐらい)。
④ ソースは缶詰のデミグラスソースを少し温めてから完熟みそを足して溶き、生クリームを加えて温める(味噌の粒が残るくらいなので温める程度で充分)。
⑤ 皿に3)のハンバーグを載せて4)のソースを掛ける。付け合わせの料理を添えれば出来上がり。
〔ポイント〕
ソースはデミグラスソースを少し温めてから完熟みそを溶かして合わせ、その後で生クリームを加えて火を入れるように。ソースは煮詰めず、温めるくらいで大丈夫です。
写真の付け合わせは、ポテトサラダ、レンコンのピリ辛トマトソース、カリフラワーのピクルス、目玉焼きで、三ツ葉と粒マスタードを添えています。付け合わせはどんなものでも大丈夫ですが、できれば酸味のあるものや辛みのあるもので味のバランスを調え方がいいでしょう。