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「元祖ぎょうざ苑」店主が語る焼き餃子文化について

 餃子を味噌だれで食べる_、これは元町から発せられた局地的な食文化である。「六甲味噌製造所」でも地域の特徴的商品として「餃子の味噌だれ」を発売しており、今や神戸の土産物にまで成長している。焼き餃子といえば、ラー油に酢醤油がスタンダードだが、神戸では味噌だれに漬けて食べる文化が古くからあるのだ。その発祥は、南京町にある「元祖ぎょうざ苑」。初代店主の頃末(ころすえ)芳夫さんが戦後、満州から帰り、餃子店をスタートさせたのがきっかけ。頃末芳夫さんは、部類の味噌好きだったので、焼き餃子のたれに味噌を使ったのが始まりのようだ。それが局地的に流行り、元町や三宮の餃子屋では、いつしか味噌だれを使って食べるようになり、一つの食文化を育んだのである。
 現在、「元祖ぎょうざ苑」は、頃末芳夫さんの孫にあたる頃末灯留(ころすえとおる)さんが三代目として店を営んでいる。筆者は、餃子にまつわる話を頃末灯留さんに聞きに行った。すると、彼は「味噌だれにつけて食べるのは、何も元町で始まったのではなく、満州ですでにやっており、それを祖父が導入したのだ」と話した。頃末芳夫さんは、戦後、新開地で満州にて教わった餃子を商いにした。新開地ではあまり流行らず、元町商店街に移り、そして昭和31年に外国人バーが建ち並んでいた今の場所で餃子店を成功させて今日に至っている。三代目にあたる頃末灯留さんは、「ずっと祖父がやって来た手法を守っており、うちは今では珍しくなってしまった満州式餃子の店ですよ」と言う。

 ここで少し餃子についての流れを語っておかねばならない。我々は、餃子というと焼き餃子を思い浮かべがちだが、実は本格中華には焼き餃子が存在しない。中国で餃子というと、水餃子や蒸し餃子になる。中国では、水餃子や蒸し餃子は高級な料理。かつては貴族の食べ物で、献上品としても扱われていた。今でもその流れがあって旧正月や結婚式などお祝いの席で食べられるものなのだ。位のある人や裕福な人が水餃子や蒸し餃子を食べ、余ったものを使用人に払い下げる(あげる)。流石に茹で直しでは美味しく食せないので使用人は焼いて食べるのだ。その調理法を「鍋貼(コーテル)」という。つまり鍋に貼って火を通した食べ物との意である。中国の貴人たちにとっては、鍋貼は言葉が悪くいえば、残飯のように映ったと思われる。
 それをなぜか、当時満州を占領していた日本人が食べた。彼らは、鍋貼(焼き餃子)が醤油に合うから旨いと思ったのだろう。そこで中国人に「餃子を焼いてほしい」と頼んだようだ。中国人からすると、残飯のような食べ物だからと躊躇しただろうが、命令には逆らえない。餃子を焼いて出した。それが満州の日本人間で広まり、彼らの中だけで市民権を得たのである。頃末灯留さんによると、「祖父は味噌好きだったので、それをたれに用いると旨いことがわかったようです。だから味噌だれは戦前に満州で広まった」と言う。大正時代の「婦人の友」には、〝素人に出来る志那料理″として焼き餃子が紹介されており、昭和初期にも同雑誌で図解入りで掲載されているそう。「ただそこには、焼き餃子の文字はなく、それは残飯のような料理だから料理名が存在しなかったのだろう」と頃末灯留さんは分析している。

 餃子は、そもそも華北の食べ物で、日本が満州を占領することで、輸入されて来た。戦後、満州帰りの兵が復員して来て餃子の製法に伝えたのだ。頃末灯留さんは、「餃子には、中国式と日本式があり、その間に満州式餃子が存在する」と教えてくれた。中国式とは、前述したように貴人の食べ物で、水餃子や蒸し餃子を指す。一方、日本式は中国で〝日式餃子″と呼ばれ、焼き餃子をいう。単に鍋で焼いたのが日式ではなく、たれにラー油が入り、にんにくを具材に入れ、旨味調味料を使ったもの_、つまり今、日本でポピュラーな形として食べられているのがそれ。「戦後の動乱期は、くず肉やくず野菜が流通しており、それを誤魔化すためにラー油やにんにく、旨味調味料が使われたのでしょう」。腐敗臭を消すためににんにくを入れ、辛さで調整して味を誤魔化す役目をラー油が担ったと思われる。そういえば、中国では羊肉を使うケースが多く、その臭みを消すために白菜を具材に用いて作る。ただ、神戸でいえば、歓楽街で焼き餃子が食べられた。にんにくを用いると精力的な意味合いもあって口コミで焼き餃子が広まったとも考えられる。中国式餃子は、黒酢をたれとした。北関東で広まった餃子は、酢9対醤油1か、酢10で食べる中国式の文化であった。日式餃子は、ラー油と酢醤油だが、北関東ではタレを日式にせず、中国式の酢で食べる文化を残した。この点は評価すべきだと思う。ただ。そんな北関東の食べ方が日本では定着せず、日式に負けてラー油を用いるようになったようだ。

 「元祖ぎょうざ苑」が創業した頃(新開地の店を登記したのは昭和26年)、当時神戸には餃子店がなかったらしい。「だから好きなスタイルでやれた」と頃末灯留さんは話している。満州式を貫いたのもそうだし、味噌だれを導入したのもそう。「うちは日式のようにラー油もないし、にんにくも旨味調味料も使っていません。漬けだれは味噌、醤油、酢だけです」。餃子の皮も満州式だそうで、日式の皮と違ってしっとりしており、皮が伸びるのが特徴。包む時もひだをつけない。頃末灯留さんによると「ひだがあれば喉に引っかかる。皮同士をひっつける時だってしっとりしているから水をつけずに包める」とのこと。頃末灯留さんの父の時代に仕込みを簡単な方法に変えたが、不評だったそう。三代目を継いでから評判が良かった祖父のやり方に戻そうと、先祖返りさせたという。「うちの具材は、下味をつけた豚肉と、キャベツ、ニラを混ぜて作ります。祖父が頑固だったから日式餃子がいくら流行ってもそのやり方には変えませんでした。基本的には祖父の餃子を踏襲していますが、私の代になって変えた点が三つあります」。それは、①神戸洋食の作り方に倣い、ソースを作って豚肉に絡める②油をピーナッツ油に替えた③神戸ビーフをソースの中に入れた、の三つである。特に三番目は、神戸らしさを出すために変革の意味で導入。贅沢にも神戸牛を隠し味にし、調味料として使ったのだ。でも味噌だれの作り方だけは、初代から今まで変わらないらしい。「祖父が新開地の店の時からやっていたそのままなんです」。味噌だれスタイルの満州式が今も「元祖ぎょうざ苑」に残っているのだ。

 ところで焼き餃子を味噌だれで食べる_、いわゆる元町らしい食べ方が広まったのは、読売テレビ系「秘密のケンミンshow」がきっかけ。「元祖ぎょうざ苑」が同番組にて2011年に取材を受けて、そのスタイルが全国へと流れた。それに合わせて神戸市も餃子を味噌だれで食べるのが神戸発祥とPR。ご当地餃子の食文化として一気に全国に広まって行った。ちなみに同番組では、2018年7月放送のチューブ祭りで餃子を味噌で食べる例が紹介され、そこでは六甲味噌製造所の「餃子の味噌だれ」が取り挙げられた。
「元祖ぎょうざ苑」の頃末芳夫さんは、まさに餃子店の先駆けで、その手法を弟子達や色んな人に教え、神戸の餃子文化を広めた。ただ、そんな餃子店のほとんどが日式餃子のスタイルに流れて行ったが、ここだけは頑なに満州式を守っている。有名な評論家が「満州式は全国でほぼ見られなくなった。唯一の店なのだから頑張って」と励ましてくれるらしい。「一軒だけになると、尚更やめられません」と頃末灯留さんは笑っていた。
 
 さて、「六甲味噌製造所」の「餃子の味噌だれ」であるが、これについては、かつて元町にあった餃子専門店とコラボして造ったものだ。「元祖ぎょうざ苑」に同様、元町の味噌だれ文化を引き継いだ形になっている。今秋(2023年)にそのスタンダード品にプラスし、「うま辛」と「柚子こしょう」が新商品として発売された。神戸・元町発祥の食文化を受け継ぐ新たな品として注目されている。
「元祖ぎょうざ苑」では、店内飲食だけではなく、土産物用の餃子も販売。そこに付く餃子の味噌だれは、同店のオリジナルだが、これまた六甲味噌製造所とコラボして開発したものだそう。
(2023/11/21)

(文/フードジャーナリスト・曽我和弘)

<著者プロフィール>
曽我和弘
廣済堂出版、あまから手帖社、TBSブリタニカと出版畑ばかりを歩み、1999年に独立して(有)クリエイターズ・ファクトリーを設立した。食に関する執筆が多く、関西の食文化をリードする存在でもある。編集の他、飲食店プロデュースやフードプランニングも行っており、今や流行している酒粕ブームは、氏が企画した酒粕プロジェクトの影響によるところが大きい。2003年にはJR三宮駅やJR大阪駅構内の駅開発事業にも参画し、関西の駅ナカブームの火付け役的存在にもなっている。現在、大阪樟蔭女子大学でも「フードメディア研究」なる授業を持っている。

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